空と風

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全戸郷、の読み方

 
全戸郷、の読み方
 
って、知ってました?
 
知りませんでした、私。
 
勉強不足です。恥ずかしいです。
でも大事なので恥を忍んで書きます。
 
 
 
 
にも書きました、『倭名類聚抄』 阿波国の郷名です。
 
上のページは、すでに書き直しましたが、こういうことです。
 
 
『倭名類聚抄』 は、もちろん写本で残ってるんでしょうが、内容が内容だけに記紀の写本ほどいいかげんではないと思いますが、完璧ではないのです。
 
1080年前の日本全土の国・郡・郷の名称を網羅していますが、その地名の訓みかたは書いているものと書いていないものがあります。
 
たとえば、阿波国でいえば、
 
 板野〈伊太野〉郡   全戸  新屋
 
 勝浦〈桂〉郡      餘戸
 
 那賀郡         和射
 
などです。那賀や和射は、徳島県人ならすぐわかります。
 
 
真面目に調べればすぐわかったんでしょうが、全戸 や 餘戸 など、特になんと読むんだろう?
と思ったまま放置していたのです。
 

図書館に行けばありますが、『大日本地名辞書』 を購入しましたので、何の気なしに見ていたら詳しく説明されていたのです。
 
 
『大日本地名辞書』
 
① 阿波 板野郡 戸郷
 
 倭名抄、板野郡 戸郷。
 
 余字を刊本誤る、余は字の俗通にして、海部郷と云ふに同じ
 
 今里浦村、及び撫養町の東部なる岡崎、立岩などの地を云ふならん。
 
 (中略)

  土佐の海 あまの鳴門をさしなから 田につくるまで君にましませ 
 
  誰ぞこの 鳴門の浦に音ずるは 泊もさむるあまの釣船
 
※ 夫木和歌抄(ふぼくわかしょう) 1310年頃の歌集
 
※ 土佐の海は高知の海、ではなく、鳴門の土佐泊、のこと
 
 
全戸 は 余戸 の、写本のさいの間違いだというんです。
 
昔の字はみな崩し字ですから十分ありえますね。
 
その余戸は、同じ阿波国勝浦郡 餘戸郷、と同じ字の新字体で訓みは同じなのだということです。
 
その訓みは、つまり上のように、
 
 あまべ
 
です。
 
余(あまる) + 戸(へ) ですね。
 
その餘戸郷は、こう書かれています。
 
 
② 阿波 勝浦郡 餘戸郷
 
 倭名抄、勝浦郡餘戸郷。
 
 今小松島村の小松島浦、中田(チウデン)などの地なるべし、中世は尼子浦と云ふ。
 
 盖(けだし)海人(あま)の居邑なれば也、
 平家物語勝浦合戦の條(くだり)に八間尼子浦とあるは此なり、
 
 八間名東郡八萬(はちま)村を云ふ。
 
※ 餘 を アマ と訓んでいた証拠に、中世は当所を 尼子 と云った、と。
 
つまり後世、 餘戸 の 戸を ヘ ではなく、 コ と訓んだため 尼子 に転化したということです。
 
地名でも人名でも、こういうことはよく起こることです。
誰でも自分の周りを思い浮かべれば、そういう例はいくらでもあります。
漢字には複数の読み方があるという事実が、こういう混乱を生みます。
たとえば、勝浦(かつら)もすでに全国的に、勝浦(かつうら)と読まれています。
かつら という元々あった音に 勝浦 という漢字を当て字したために、後世こういうことが起こります。 
 
 
③ 阿波 海部郡 海部郷
 
 倭名抄、那賀郡海部郷、訓加伊布、式社記貝府郷。
 
 今淺川村、海部浦(川西村川東村鞆奥村 宍喰村(以上海部郡)
 
 及び甲野浦村、野根村(以上土佐国安藝郡)などなるべし。 (中略)
 
 按ふに海部は古訓阿麻(又阿麻邊)なるを、倭名抄の當時すでに字音に従ひ
 
 加伊布と訓めり。
 
 諸州の海部を後世海府に改むるも、此例なるべし。
 
※ 海部 かいふ も元は あまべ だったものを、1000年前の時点で訓み誤った、と書いています。
 
根拠を示しながら書くので説得力がありますね。
 
私にはもう一点仮説があります。
この倭名鈔を書くとき、または写本されるとき、すでに阿波国の海部郡は、かいふ と読まれていたのです。
 
ところが、板野郡と勝浦郡にも同じ海部という字を使うと、すべて同じ訓みをされてしまいます。
そこで、この2ヶ所には、わざわざ別の余戸という字を当て、あまべ と訓ませたのでしょう。
 
 
とわかると、やはり凄いことになってきました。
阿波の海岸線は、北から南まで完全に海部氏のものでした。
 
一国に郷名で3ヶ所も、アマベの名がつく国が他にあるでしょうか?
全国の海部、海部氏のルーツです。
古代日本の海人族の本貫地です。
ここにはもちろん、安曇氏も関係してきます。
 
安曇(あづみ)は、海人津見(あまつみ)が転訛したものなのです。
 
安曇氏の始祖、綿津見大神の娘で神武天皇の祖母、綿津見豊玉姫が日本のどこの式内社で祀られているか?
 
もちろん、阿波一国なのです。
 
 
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