空と風

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船岡山の謎 ③ 阿波と籠神社

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籠神社(籠神社HPより)

元伊勢籠神社とも称する丹後国一宮 籠神社(このじんじゃ) 京都府宮津市字大垣

本宮の御祭神は、同社HPによれば、

 主神は 彦火明命(ひこほあかりのみこと)

 亦の名は 天火明命・天照御魂神・天照国照彦火明命・饒速日命

 極秘伝に依れば、同命は山城の 賀茂別雷神 と異名同神であり、
 その御祖の大神(下鴨)も併せ祭られているとも伝えられる。

とあります。


Wikipedia)↓

~籠神社

社伝によれば、元々真名井原の地(現在の境外摂社・奥宮真名井神社)に豊受大神が鎮座し、
匏宮(よさのみや、与佐宮とも)と称されていた。

神道五部書』の一つの「豊受大神御鎮座本紀」によれば、

 崇神天皇の時代、天照大神が大和笠縫邑から与佐宮に移り、豊受大神から御饌物を受けていた。

 4年後、天照大神は伊勢へ移り、後に豊受大神伊勢神宮へ移った。
 これによって、当社を「元伊勢」という。

 養老3年(719年)、真名井原から現在地に遷座して主祭神を彦火明命とし、
 豊受・天照両神を相殿に祀り、社名を籠宮に改めた。

 真名井原の元の鎮座地は摂社・奥宮真名井神社とされた。~
        

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奥宮真名井神社(籠神社HPより)

その真名井神社主祭神は「豊受大神」。

亦の名を、天御中主神国常立尊ともいうと由緒にありますが、無理が大きいのではないでしょうか?
籠神社御祭神の、饒速日命賀茂別雷神 というのもピンときません。

上記の由緒を見る限りでは、籠神社本来の御祭神はこの「豊受大神」であり、遷座の際、
社家の海部氏がその祖神とされる「彦火明命」を主祭神としたようです。


宮司、海部光彦氏は、八十二代目に当たりますが、海部氏所蔵の国宝『海部氏系図』によると、

 彦火明命 ー 天香語山命 ー 天村雲命 ー 倭宿禰

となっており、

「始祖彦火明命」は、高天原にて「天道日女命」(大己貴神の娘)を娶り、天香語山命が生まれた。

天香語山命」は「穂屋姫命」を娶り、天村雲命が生まれた。

と記されています。

真名井神社社伝によれば、

この「天村雲命」が、天上の御神水真名井神社の地に持ち下ろした

とされていて、これこそが『丹後風土記』の「比沼真奈井神話」の真奈井です。


前回と以前に紹介した折口信夫の文章に、まだ紹介していなかった部分を加えて書き出してみます。


①出雲のあはきへ・わなさひこなる社の名である。
 阿波から来経(キヘ)――移り来て住みつい――たことを言うのだから。

 丹波のわなさ翁・媼も、同様みぬまの信仰と、物語とを撒いて廻った神部の総名であったに違いない。

 養い神を携えあるいたわなさの神部は、みぬま・わなさ関係の物語の語りてでもあった。
 わなさ物語の老夫婦の名の、わなさ翁・媼ときまるのは、もっともである。
 
 比沼・奈具の神も、阿波から持ち越された おほげつひめであり、とようかのめであり、
 外宮の神だとも言えよう。

②「阿波来経(アハキヘ)わなさ彦」と言ふ出雲風土記に見えた神は、尠くとも出雲国だけで言へば、
 ある古代に阿波の美馬(ミルメ)から、此亦出雲に斎かれた社の多い「みぬま」の女神
 を将来した神人の神格化したものである。


③みぬま・みつはは一語であるが、みつはのめの、みつはも、一つものと見てよい。

 阿波の国美馬郡の「美都波迺売(みつはのめ)神社」は、注意すべき神である。
 
 大和のみつはのめと、みつは・みぬまの一つものなることを示している。

 美馬の郡名は、みぬまあるいはみつま・みるめと音価の動揺していたらしい地名である。
 地名も神の名から出たに違いない。

④丹後風土記逸文の「比沼山」のこと。
 
 ひちの郷に近いから、山の名も比治山(ヒヂヤマ)と定められてしもうている。
 丹波の道主ノ貴(ムチ)が言うのに、ひぬま(氷沼)の……というふうの修飾を置くからと見ると、
 ひぬまの地名は、古くあったのである。

 このひぬまも、みぬまの一統なのであった。

⑤みぬま・みつは・みつま・みぬめ・みるめ・ひぬま。これだけの語に通ずるところは、水神に関した地名で、

 これに対して、にふ(丹生)と、むなかたの三女神が、あったらしいことだ。

 丹後の比沼山の真名井に現れた女神は、とようかのめで、外宮(げくう)の神であった。
 すなわちその水および酒の神としての場合の、神名である。

 この神初めひぬまのまなゐの水に浴していた。

 阿波のみつはのめの社も、那賀郡のわなさおほその神社の存在を考えに入れてみると、
 ひぬま真名井式の物語があったろう。

 出雲にもわなさおきなの社があり、あはきへ・わなさひこという神もあった。
 阿波のわなさ・おほそとの関係が思われる。



みぬま・みつは・みつま・みぬめ・みるめ・ひぬま。

これらの音に共通するものは、阿波国美馬郡の「美都波迺売(みつはのめ)神社」に象徴されるように、「水」の神と伝承であると説いています。

そしてそれを阿波の「ワナサ」が、出雲、丹後に宣布したと。
丹後風土記では、食物神である豊受大神によって、その水は万病に効く酒へと進化しています。


阿波国美馬郡「弥都波能賣神社」は、日本で阿波国のみにある延喜式式内社で、御祭神は水の神「弥都波能売神」です。


母のイザナミの命を祀る式内社「伊射奈美神社」も阿波にしかありません。


上記の丹後風土記の「比沼」に伝わる「真奈井神話」の主人公であり、「天村雲命」が「天」(高天原)の真奈井から御神水を移すと同時にその地に祀った神である「豊受大神」(大宜都比売)は、阿波国の別名です。


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上一宮大粟神社 名西郡神山町神領

上一宮大粟神社は、式内社天石門別八倉比賣神社 にも比定される古社で、御祭神が大宜都比売です。

「真奈井」と称する井戸も、阿波には数か所現存します。


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上一宮大粟神社の真奈井の宮

そしてその「天村雲命」を祀った式内社「天村雲神伊自波夜比賣神社」も阿波一国の社です。


よほどのとんちんかんでない限り、これらのルーツは阿波にあるのではないか?という仮説くらいは頭に浮かぶのではないでしょうか?

それを阻害するのは、間違った「常識」と「先入観」だけです。

たとえば、「イザナミ」でも「アメノムラクモ」でも検索してみてください。

Wikipedia)だろうと、一般に売られている書物だろうと、阿波のアの字も出てきませんから。
神や神社、記紀を紹介・解説した、ページ・書物、全て無視です。

○○の神、を祀る□□神社は、これこれ・どこどこ、といろいろ書かれていますが、たとえそれが全国で阿波にしかない延喜式式内社であっても、それは一切紹介されていません。

他県の、もっと時代の新しい観光地化された神社と由緒ばかりが記されています。
神や神社や古代に興味を持って、本当のことを知りたい、と、そういう気持ちでこのテの書物を手にする人も多いと思うのですが、内容は観光パンフレットと変わりません。

調べれば分かることを書かないのですから、わざとだとしか思えませんね。

それぞれの専門家が、そんなに馬鹿なわけありませんから。

これがこの分野の日本の常識です。

(まだまだ、続く)